日本の昔話に悪役として頻繁に登場する鬼。「桃太郎」に登場する鬼は特に有名だが、鬼とは架空の怪物と考えられてきた。ところが、編集部に驚くべき情報が飛び込んできた。なんと、鬼のミイラが保存されているというのだ。それも全国各地の寺や神社に鬼の腕や頭の部分のミイラのみならず、全身までが保存されているということが分かったのだ。しかし、この手の情報はうさん臭く、架空の生物のミイラに関してはニセモノが多い。昔、ある人がカネに困って適当な生き物でミイラを作り、細工を施して、金持ちに売ったという話もある。
オランダの国立民族博物館には人魚のミイラ(体長約60センチ体重1.42キログラム)が保存されている。国立博物館に保存されているミイラとしては一級の珍品だ。しかし、前述の通り、このようなミイラは本物ではないかもしれない。そこで、ライデン大学医学研究所のピーター・ドゥ・クニーフ博士がこのミイラのDNA鑑定を行った。この検査では遺伝子を解明することにより、生物を特定できるからだ。しかし、博士が鑑定した結果、このミイラがいかなる生物なのか判断できなかった。特殊な薬品がミイラの細胞のDNAを破壊していたからである。
この検査では解明することはできなかったが、レントゲン検査では、このミイラがニセモノであることが分かった。胴体から尾にかけて金属の棒があり、切断された魚の骨が見つかったからだ。可能性としては、下半身はサケかマスの仲間、上半身はサル、あるいはイヌで、2種類の生物を金属の棒でつなぎ合わせて作られていることが明らかになった。
1824年、出島のオランダ商館長のヤン・コック・ブロムホフは人魚のミイラを本国に持ち帰った、との話がある。しかし、日本剥製師教会会長の尼ヶ崎興三氏は、そのミイラはニセモノではないかと考えている。「ツメの形がサルで、下半身はサケ。江戸時代の日本人が作った一種の干物ではないでしょうか。皮が縮んで変色しているので本物のミイラに見えますが。これも防腐剤としてヒ素を試用しているため、DNA破壊が起こっています」このミイラは本物なのだろうか。未だに謎に包まれている。
西洋では「存在の連鎖」(生物はすべて形態の違いによって鎖のように一列に並んでいる)という考え方があり、人間と魚の間をつなぐ人魚の存在も信じられていた。大航海時代(15〜17世紀)、西洋人は人魚を探し求めていた。日本人が人魚のミイラを作って彼ら相手に一儲けしようとしていたのかもしれない。
さて、鬼のミイラの話に戻ろう。日本にあるものとして有名なのは、富山県高岡市の栄願寺に伝わる鬼の頭のミイラだ。他に鬼の腕のミイラも保存されており、お盆には一般公開される代物だ。しかし、人魚のミイラ同様、このミイラはニセモノという説もある。実は、人間の頭を元に皮膚や歯、髪の毛も人間のモノを使用されているというのだ。その真偽を確かめたいのはヤマヤマだが、このミイラは「神様」扱いされており、誰もそれを汚すことができないのだ。正体を暴けないこのミイラが本物かどうかは謎のままである。 それにしても、一体、鬼の伝説とはどこから生まれたのだろうか?文献を調べてみると、納得できる伝説を発見することができた。
昔、外国から漂着し、村人に見つからないように人里離れた山奥に隠れ住んでいた外国人を「鬼」と呼ぶようになったという説がある。赤鬼や青鬼は外国人の肌の色からきているという。また、赤が鉄、青が銅を象徴しているという説もある。
その他、鬼とは本当は弱い生き物だったいう説もある。突然変異などで角が生えている人間が中国に存在しているが、そういった体に障害などの異常を持つ者が、山奥に隠れ住み、たまに人里にやってきて人々を驚かしたそうだ。
いずれにしても、鬼とは、人間と対立し、忌み嫌われる存在というイメージがある。詳しく調べてみると、このイメージは室町時代あたりにできているようだ。『今昔物語』に登場する鬼は、黒い肌の1つ目で、化け物に近いイメージだ(写真)。もともと「鬼」は中国で死者の頭を指す字として生まれ、その後、死体・霊魂・亡霊を意味するようになった。それが日本に伝わり、「おに」と読まれるようになったという。
「おに」は隠(おん)という語から出たとも言われている。「穏」とは文字通り「隠れている」という意味であり、現世で「隠れた」存在である死者を現している。つまり亡霊だまた、中央政権に敵対して隠れて生活していた反乱民や先住民、山中に暮らす人びと、鉱山職人なども「おに」と呼ばれていたという。古代の文献によると、日本の鬼は死者や亡霊ではなく、人里離れて暮らす鍛冶師や鉄や銅を掘る人なども、鬼のイメージに入れていたそうだ。それを裏付けるのが地獄絵だ。鬼は鉄棒やノコギリ、鉄床を持ち、地獄に落ちた人間を拷問にかけている。
このように鬼とは邪悪であり、恐ろしい怪物というイメージが強いが、そうでない地域もある。
奈良県吉野郡の天河村の村民たちは、自分たちを鬼の子孫だと信じ、鬼を崇めている。「福は内、鬼は外」で知られる節分の文句も、この土地では逆になり「鬼は内」となるのだ。節分の日には、鬼を家に招き入れる儀式が行われる。座敷に布団を敷き、一家がそれを囲み、祈祷師のような人物が呪文を唱えて鬼を家に入れるのである。この儀式に参加した人は「かまいたち現象が起こった、あれが鬼でしょう」と言っている。この土地では、鬼は先祖の亡霊であり、神のような扱いを受けているのだ。彼らが先祖と信じている鬼の頭蓋骨は、天河村にある天川大弁才天社の宝物殿に保存されているという。一般公開されていないため、本当に存在するのか、あったとしても本物かどうかは不明だが、日本での鬼のイメージ=角のある怪物というイメージと、中国の鬼の意味が融合していると思われる。蛇足だが、この神社に保存されているお宝は、鬼の頭蓋骨だけではない。カッパのミイラ、大タヌキのふぐり、和泉式部の50の陰毛など、珍品揃いなのだ。これらもひょっとすると、昔の職人が金儲けのために細工したニセモノかもしれない。
昔は化け物だった鬼もいったんミイラになれば、その価値は上がるようだ。大分県宇佐市四日市の十宝山大乗院(写真)のミイラ(写真)にはこんな話が言い伝えられている。
ある名家に鬼のミイラがあった。代々家宝として大切に保管されていたが、当主がカネに困り、多くの人の手に渡ったらしい。そして大正14年、大乗院の檀家が当時では破格の5500円で購入したという。当時の5500円とは現在ではどれぐらいの価値があるのだろうか。そこで、造幣局に問い合わせてみると、こんな答えが返ってきた。「大正14年投じ、米の小売価格の相場は10kg当たり3円でした。米の相場から考えると今では1200倍の約680万円ぐらいですね」鬼のミイラにそれだけのカネをつぎ込むほど価値があったようだ。大枚をはたいて購入した鬼のミイラだったが、この檀家に思わぬ災難が降りかかった。ミイラを購入した後、原因不明の病に倒れたのである。「これは鬼の祟りに違いない!」そう考えた檀家は、昭和4年、大乗院に安置してもらったところ、彼の体調は回復したという。現在は、この鬼のミイラは仏様として祀られている。このミイラは両手を胸のあたりで組んで座っている。手足の指は3本で、5cmの角も生えている。座った状態での高さは1.4m。身長は推定2.1mなるのはこれが本物か偽物かということだ。そこで九州大学が調査に乗り出した。すると、確かに手足の指は3本で怪物のようではあるが、性別は女性で、骨は人骨らしいと判明した。シカの歯やヤギの角を用いて細工しているのではないか、と同大学は推測している。
鬼のミイラ以外にも、妖怪・カッパのミイラが日本に存在している。1つは松浦一酒造(株)が所有している(写真)。創業は正徳6年(1716年)で、285年間続いている名家である。「当家には『我が家には何か珍しいものがある』と、代々の当主から当主へ語り継がれていましたが、それが何を意味するのかわかりませんでした。ところが、約50年前、屋根を替える際に不思議なものが見つかったのです」大工の棟梁が「梁の上にこんなものがくくりつけてありました」と、ホコリをかぶったボロボロの箱を持ってきた。丁寧に縛られた紐を解いて蓋を開けてみると、不思議な形をしたミイラが出てきたという。「ホコリを払うと“河伯”と書かれていました。これが“カッパ”を意味するということしか分かりませんでしたが、代々伝わる珍しい物に違いないと思いました」
もう1つは、岐阜県立歴史博物館に保存されている。瑞龍寺蔵のミイラで、人間のようで人間ではないような不気味なイメージのミイラだ(写真)。果たしてこれら妖怪や怪物のミイラは本物なのか?偽物ならば誰が何のために作ったものなのだろうか?いつから化け物を神のように扱うようになったのか。妖怪のミイラの謎は深まる一方なのだ。 |